ニノマエのSPECについて改めて書いておくと、彼自身が語るところによれば、彼のSPECは時を止めるのではなく、すべての物や人はそれぞれの時の流れを持っており、彼だけがその流れの中を非常に速く進むことができるため、周囲から観察すると時を止めて行動したかのように見える、ということだったと思います。
加えて、ニノマエが望む人物を彼の時の流れに取り込むことができ、取り込まれた人物も彼と同じ時の流れの速さで行動ができるようになり、その結果として会話や移動が可能になるという説明もあったように思います。
こういった時を止める能力を考えたときに問題となるのが、自分以外のどの程度の物までの時を止めるかということです。
当然ながら自分の体内の時の流れを止めるわけにはいきません。心臓が止まると息ができないですし、脳の活動が停止すると考えることができなくなり、挙げていけば困ることはいくらでもあります。
さらに、外界についても止まってもらうとまずいことがいくつかあります。
空気中の原子の運動が止まれば圧力が無くなるので、一度動けば体内からの圧力との平衡が取れなくなり身体が破裂すると考えられるので、空気というものの時の流れも彼の時の流れに取り込む必要があります。
光も止まると困りそうです。光が止まると誰がどこにいるかがすぐにはわからなくなってしまいます。手探りで何がどこにあるかを探していくのは効率が悪いです。
しかし、光を動かそうとすると他の問題が発生します。光を発生させようとすると往々にして電気が必要になります。部屋の明かりを有効にするには電気の供給を止めるわけにはいかず、電気の供給を止めるわけにいかないということは発電所を止めるわけにはいかないということになります。
すると、例えば火力発電所であれば、発電機の役割をするタービンがニノマエとその周辺以外の時が止まった空間で轟々と回っていることになり、電力の需要と供給のバランス等を考えると問題が発生しそうです。
したがって、光はニノマエのSPECに含まれる形で都合よく供給されているとしておくのが良さそうです。
発電所が動いていることにしても良いのですが、その場合は電気製品を非常に細かく分類して時を止めるものとそうでないものに分けることになります。そうすると、発電所を動かすならそれを制御するコンピュータが動いていないと発電所が故障するでしょうし、そこのコンピュータを動かすと発電所に勤める人は、ニノマエがSPECを発動するたびにコンピュータの時計が速く進んでいるのを直す必要があるように思われます。もちろんそれ以外の問題もあるでしょうが。
すると、ニノマエのSPECはある程度都合よく時の流れを動かす必要があり、そこまでを含めたSPECがニノマエに発生したとしておくのが、こちらとしても都合が良さそうです。
ニノマエが意識して頭の中に時を止めるものの一覧表を持っているよりも、彼のSPEC自体がそれを受け持っているので、彼はそこまで意識する必要がないとしておかないと、最初にSPECが発動した際に彼だけ死ぬか意識を失うということがありそうです。教える第三者がいるとすると、そいつはどうやって会得したのだとなりますし。
以上のように考えると、ドラマ内の毒によるニノマエ対策は理に適っているように思えます。なぜなら彼に付着した毒は彼と時の流れを共にすることになり、結果として彼だけ毒が速くまわり気を失うことによりSPECの発動が停止するというシナリオは、それほど無茶ではないと思います。
問題は、映画のようにキャリーバッグ内の高電圧発生装置は、ニノマエの時の流れに含まれるか否かです。
放出された釘に触った瞬間に含まれるとすると、過去に銃弾に触ったときに銃弾が動き出してもいいはずです。
電気はニノマエと時の流れを共にすると考えると、先ほど考えたようにコンピュータの時計が狂い、とてもわかりやすい形で時の流れが変化したことがわかります。さらに先ほどは限定的な電化製品が対象になったのに対して、今度はすべての電気が含まれないと整合性が取れにくくなるので銀行のATMや宇宙の観測システムやら多くの機器に影響が及びます。
宇宙の観測システムに影響が及ぶなどと言い始めると、惑星の動きは止まっているのかといったことまで考える必要があり話が長くなりそうなのでしませんが。
何が言いたいかというと、電気によるニノマエ対策を当麻が考えるのはおかしいのではないかということです。
ニノマエが時の流れを異にするのを知っていながら自爆攻撃を仕掛けようとした津田と同じくらいおかしいのではないかと思います。
しかしながら、映画ではニノマエが電流によるダメージを受けているので、その点について考慮する必要がありそうなので、僕が考えた可能性をいくつか挙げると、
- ニノマエのSPECについての考察に誤りがある。これはまず最初に考えられるべきです。もっとも今までの文章が見事に無駄になりますが。
- 実は当麻がSPECを使っていた。当麻のSPECが消えていなかったとしてもいいですし、当麻は二つ以上のSPECを持っていたとしてもいいです。一人一つのSPECとは今のところ断られていないはずです。
- シンプルプランの裏、またはファティマ第三の予言に関わる何者かによるシナリオの結果。白い帽子の男や、ニノマエのクローンを作成したものが関わっている。
- そうしないと当麻が負ける。それを言っちゃあ・・・。
最後はメタな可能性ですが一応入れておきます。
そういえば、白い帽子の男とニノマエのクローンを作成したものは別グループであるとするべきか、そうでないとするべきかという疑問も残っている気がします。
いずれにしても、今回の映画はこれまで以上に謎が増えておもしろくなってきたと同時に、整合性を取るのが難しいというのが感想です。一度しか見ていないので、何度か見れば整合性を取る手がかりが見つかるのかもしれませんが。
SPECという普通の人間の能力を超越した対象に対して、理に適うとかは特に意味はないのですが、現実に存在しようとすれば当然ながらそれなりの整合性を取る必要があるし、何よりも一度考えておくと面白いのでこうして文章にしてみました。それほど考える負担にもならないですし。
神木君が進んでしまった時計を一生懸命、しかも最初に戻す時計は最後に戻す時計に辿り着くまでの時間を計算して、戻して歩くのもそれはそれで見てみたいですが。